【今さら聞けない音楽用語】「音圧って何?」をできるだけ簡単に解説してみる

音楽を作る人以外でもわりと耳にする「音圧」という単語。

ニュアンスはなんとなくわかるような、でも言葉で説明しなさいって言われたら困っちゃうような、そんな存在ではないでしょうか?


すでにいろんな人が説明してますが、なんか僕も解説してみたくなったのでなるべく難しい話にならないように書いていきます。


音圧って実際なんなの?

音楽用語でいう音圧はラウドネス(人間の聴覚が感じる音の大きさ)ということ。
シンプルでしっくりくる説明が難しいんですけど、プレイヤーの音量を一定にしたときの聴感上の音の大きさと考えてください。
もっとカンタンにいうと、音の迫力かな?



1994年リリースのGreen Day「Basket Case」
いつ見ても良きかな。



こちらは20年後の2014年リリースのYkiki Beat「Forever」

同じ音量で再生しても、聴感上の音の大きさは後者のほうが大きいですよね。
「音圧が高い」というのは簡単にいうと、こういうこと。
(現在ではGreen Dayの曲もリマスターされているので、ベストアルバムやiTunesなどでは音圧の高い状態になってます)


音圧が高いのと低いのどちらがいいかとは一概に言えないけど、世間的には音圧は高いほうがいいとされる傾向にあります。

ミックスやマスタリングの依頼時にも「とりあえず音デカめで!」と、1杯目のビールを頼むときみたいに言われることもよくありますし。笑

それくらい音圧の高い処理が定着しているということですね。
派手に聴こえるし、音が大きい方がかっこよく聞こえますから。

0dB(0デシベル)の壁


現実世界ではボリュームをひねればどんどん音は大きくなるし、出力の大きいアンプとそれに耐えうるスピーカーがあればいくらでも大きい音を出すことができます。

しかし、デジタルの世界ではオーディオデータが出せるもっとも大きい音は0dBという基準が決まっています。
それ以上にしようとすればピークを超えてクリップ(音が歪んだり割れたりすること)をしてしまい、原音を損ない音が破綻してしまいます。

この0dBという基準がとっつきにくいけど、とても大事なのです。


音圧をモノに例えよう


よく食べ物に例える方が多いので、僕はグラスに入った水で例えてみます。

音圧が低い状態


グラスに水が少なめに入っている=音圧が低い状態。
グラスのふちを上限ギリギリ0dBとしたとき、上限まではだいぶ余裕があります。

先ほど例に挙げた前者・Green Dayの曲を波形で見るとこんな感じ。


このコップと同じような状態と言えます。

音圧が高い状態



グラスに水がギリギリまで入っている=音圧が高い状態。
グラスのふちを上限ギリギリ0dBとしたとき、ギリギリ目一杯まで注いだって感じ。

先ほど例に挙げた後者・Ykiki Beatの曲を波形で見るとこんな感じ。


上限の0dB付近までギッシリ詰め込まれているのがわかるかと思います。

グラスの水が上限を超えてフチから溢れ出てしまう状態=デジタルオーディオデータが0dBを超えてしまう状態をクリップするといいます。
このクリップした状態になってしまうと、音が割れたり歪んだりしてしまいます。


こんな感じでなんとなくお分かりいただけたでしょうか?

最初は戸愚呂弟で説明しようとしたんですが、いろいろ問題があって波形どころか話が破綻してしまうと思ってボツにしました。笑




波形とサウンドで見る音圧

ここにサンプル音源とその波形があります。

①原音(バイパス)

まず、DAW上でなにも処理していない(バイパス状態にした)まま書き出したオーディオを聞いてみてください。



波形は音の信号を波で表したもので、波の振幅の大きいところが音も大きく、振幅が小さいところは音も小さいです。

②処理後

次にこちらは①原音をコンプレッサーやリミッターを使って処理したもの。



音圧を上げることで音のピークは大きくなりつつもクリップしないように抑えられ、波形の小さかった部分も持ち上がり、全体的に聴きやすくなったと思います。

このような処理を「音圧を上げる」といいます。

③比較

両方の波形を比較するとこんな感じ。



こうして並べて見てみると、あきらかに波形が大きくなっているのがわかると思います。

小さい音はコンプレッサーで圧縮して持ち上げて、大きい音やアタックが強い音がなっているところはピークを超えないようリミッターで抑えつつ、全体の音圧を上げています。

こういった音圧を上げる処理は一般的にマスタリングという工程で行われます。
(参照記事:いまさら聞けない「ミックスとかマスタリングって結局なにしてるの?」 - SAKUMAMATATA



音圧至上主義の弊害

ここまで見ていただいた通り、音圧を上げる処理というのは迫力を増したり聴きやすくしたりなどいろんな恩恵をもたらすとても大事な処理です。ですが行き過ぎてしまえば、大きい音と小さい音のメリハリがなくなったり、奥行き感や広がりを感じにくくなったり、音が歪んでしまったりして原音の良さを損ねてしまいます。

音圧が高い方が他の曲と比べても目立つし、派手でかっこいい。しかし、やりすぎれば原音の良さを損なうことにもつながる。このような矛盾を抱えながらも、大きい音の曲の方がリスナーの反応が得られやすいことから音楽業界は音圧の高い曲のリリースを続けていきました。


そしていつしか音圧戦争(Loudness War)という言葉まで生まれ、そんな矛盾を指摘する人たちも多くなっていきました。


メタリカ音圧上げすぎ問題

音圧を上げすぎたせいで音質が劣化してしまい物議を醸した、音圧戦争を代表するようなエピソードがあります。

2008年にリリースされたMETALLICAのアルバム「Death Magnetic(デス・マグネティック)」。

このアルバムの収録曲が、ギターヒーローというゲーム内で使用されていたのですが「CDリリース版よりもゲーム版の方が音質がいい!」というところから火がつき、賛否両論を巻き起こしました。



この動画はCD版とゲーム版の音質を比較した動画。
CDがリリースされたCDの音、GHがゲーム内楽曲の音。

こうして並べて聞いてみると、たしかにCDバージョンの方が少し歪んだ音で、ゲームの方がドラムのハイハットやスネアのハイの成分がハッキリしていて全体的にクリアに聞こえる感じがしますね。

このCD版のマスタリングを手がけたのは世界的に有名なマスタリングエンジニアのテッド・ジェンセンという人物でしたが、「ゲーム版のマスタリングの方が優れている」と認めたそう。

このような問題を経て、後にリマスター版として改善されたアルバムをリリースしています。

結局、音圧はどうなってればいいの?

音圧が低ければショボく聴こえてしまうし、音圧が高いと「劣化するからやめろ!」と罵られる。
じゃあ実際どうだったらいいのよ?って考える方もいると思います。

最終的に大事なのは作り手のイメージした音像になっていることと、聴く人が快適に聴ける程度の音圧が備わってること。本当はそれで充分なんです。


「あのアーティストの曲は同じジャンルの俺の曲よりも音がデカい!くそ、俺ももっとデカくしてやる!」みたいな考え方は本来の意図とは違うはず。
ただデカけりゃいいってわけじゃないですよね。

ジャズやクラシックなど原音のバランスを重視するジャンルではあまり音圧をあげる処理はされないですし、「その曲にあった音の大きさ」を尊重するというのが最適解だと思います。

音圧戦争の行く末

ちなみに、ここまでいろいろ書いておいてアレですが僕はデカい音の曲大好きです。笑

音数の多い曲とか大きい音の楽器が多い曲とかって音圧をあげるのが難しんですよね。
だからそれをすごくクリアな音で、絶妙なバランスで、かつ音圧が高い処理をされた曲を聴くと素直に「すごいなぁ、どうやってやってるんだろうなぁ」って思ったりします。


音圧戦争が終わる、というよりはいかに劣化させずにクリアでバランスのいい高音質なデカい音のマスターを作るかみたいな感じにどんどんシフトしていってる感じですかね。

「デカい音はデカく、小さい音は小さく、でもトータルの音圧は高く、しかもいい音で!」っていう無茶ぶりを共存させられるミックスやマスタリングができるエンジニアが重宝される時代になっていくと思います。

音楽家も「この人なら間違いない!」というエンジニアを見つけるのがとても大事ですね。あのテッド・ジェンセンですら、うっかりやりすぎちゃう場合もあるんですから。笑

おわりに

なるべく噛み砕いて説明しようと心がけたけど、結局むずかしい話になっちゃいましたかね?笑

「0dBとか、波形がどうの、クリップがどうの」とか言ってるとどうしてもややこしい話みたいになっちゃうんですけど、捉え方はごくシンプルにグラスの水と同じように考えてもらえれば。

それでは今回はこの辺で。


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